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2003年 南座三月大歌舞伎 昼の部 [2003年 歌舞伎]

2003年3月24日配信

皆様、こんにちは。

梅の香りも名残となってきましたね。いよいよ、春ももうすぐ、というところでしょうか。

本日は、2ヶ月ぶりの歌舞伎!!南座で興行中の、三月大歌舞伎を報告します。

主な出演は、市川團十郎、新之助、尾上菊五郎、菊之助、中村芝雀、中村福助(『源氏物語』のみ)。プチ團菊祭、といった感じですね!!

(注:「團菊祭」とは、毎年5月に歌舞伎座で行われる定例興行。歌舞伎界の大看板・市川團十郎一門と尾上菊五郎一門の責任興行なので、このような名称がついています。)

演目は昼の部、以下の三本。

◆『扇屋熊谷』(團十郎、菊之助、芝雀)
◆『保名(やすな)』(菊五郎)
◆『松竹梅湯島掛額(しょうちくばい ゆしまのかけがく)』(菊五郎、菊之助、新之助)

巷では関西では初上演となる、新之助主演の夜の部『源氏物語』が大きな話題を呼んでいますが、まだまだ初心者としては、1つでも多くの芝居を観たい、と言う友人と意見が一致したので、今回は昼の部。

予約センターで「昼の部2枚」とチケットを申し込むと、受付の方が「お客様、『源氏物語』は、昼の部ではありませんが…」。すみませんね、ひねくれ者たちで(笑)。

では、早速まいりましょう~。

■扇屋熊谷■

<あらすじ>

源平合戦の折、一ノ谷の戦いでの熊谷直実と平敦盛のエピソードは有名ですが、歌舞伎にはこの史実を巧みにアレンジしたお芝居がいくつかあります。

このお芝居もその1つで、史実を逆流し、実は熊谷と敦盛が、戦の前に既に京の都で出会いを果たしていた、というお話。

京で扇屋を営む扇屋上総(坂東彦三郎)は、昔の恩に報いるため、平敦盛(菊之助)に娘の扮装をさせて匿っています。上総の娘、桂子(かつらこ:芝雀)は敦盛に片思い。

そこに、どこで聞きつけたか、扇屋に追っ手が差し向けられ、敦盛を出せと迫ります。追い詰められた上総を救ったのは、偶然、軍扇を注文に来ていた熊谷直実(團十郎)。熊谷の義心に感じ入った敦盛は、戦場での再会を約束します。

<感想>

関西では44年ぶり、歌舞伎としても10年ぶりの上演です。

まず扇屋の場、男性である敦盛が扇折の娘に扮している、という趣向が面白い。そして敦盛に思いを寄せる桂子が、ホンモノとは知らずに娘姿の敦盛をかきくどく場面は、女形同士の華やかな空気が漂います。

五条橋の場で、花道でぶっかえって見目麗しい若武者姿に早替わり、という演出も、観客にとっては嬉しいですよね。

菊之助(小萩実は敦盛)は、瑞々しい娘姿から、気品ある平家の若君に立替わる、その変化の切り替えが非常に鮮やか。菊之助の清潔な娘方の色気が、若君の上品さと上手くミックスされています。当たり役になるのでは?

対する團十郎(熊谷直実)は、さすがの存在感。馬上でのぶっかえりもお見事!!

五条橋の場、この2人がそれぞれ扇を片手に舞う場面は、テンポが良くて、ここだけでも名場面だと思います。

芝雀(桂子)は、出番が最初の10数分でありながら、ぽってりとした可愛らしさでとろりん悩殺(笑)。商いを手伝うよう頼まれても、お人形さんの相手に「わしゃ、忙しゅうて手伝えぬことじゃわいなァ」と、世間知らずな大店お嬢様ぶり炸裂(笑)。かわゆい…。

■保名■

有名な歌舞伎舞踊。よく上演されていますが、(1月の歌舞伎座でもかかりました)私は初見です。

恋人であった榊の前に突然死なれてしまった、安倍保名(菊五郎)は心乱れ、狂ってしまいます。亡き恋人の形見である小袖を片時も離さず、保名は、彼女の面影を見つめてさまよいます。

<感想>

菊五郎というと、昨夏の芝居『らくだ』が強烈に印象に残っていて、私の中では「菊五郎=リアルに江戸のおやじ」みたいな図式がインプットされています(笑)。

それだけに、今回の『保名』は、ワイルドな感じになるのかしら(どんな感じだ)と、勝手に思っていたのですが、想像以上に憂愁と品格を感じさせる舞台でした。

やはり、若い頃(今も充分に若々しいが)の女形としての経験の積み重ねが、このような舞踊や時代物の若衆役で生かされるのだな、と実感しました。

■松竹梅湯島掛額■

【吉祥院お土砂の場】

八百屋の娘、お七(菊之助)は、吉祥院の寺小姓、吉三郎(新之助)と恋仲。しかし思いがけぬ横恋慕が入り、2人は添うに添われぬ恋を嘆きます。

お七を可愛がっている近所の紅屋長兵衛(菊五郎)、通称紅長(べんちょう)は、ふとしたことから、真言秘密の「お土砂」を手に入れます。この「お土砂」、とても不思議な魔法の砂で、この砂をかけられると、たちまち体がぐにゃぐにゃになってしまうのです。

さあ、ここから大騒動が巻き起こります。

【火の見櫓の場】

ある事件がきっかけでピンチに追い詰められた吉三郎を救おうと、お七は決死の覚悟で、火の見櫓の太鼓を打ち鳴らす決意をします。雪が狂ったように降り続ける中、お七の命と引き換えにするかのように、太鼓の音が力強く、江戸の街に響くのでした…。

<感想>

これはもう、音羽屋、特に菊之助の一人舞台、といった感じ。菊之助の役者としての存在感、可能性に感動。

●まず【お土砂の場】最初の見所は、お七が吉祥院の欄間に彫られている天女に化ける「天人お七」の演出。菊之助演じるお七が紫の振袖姿で、欄間の中で金の蓮を持って横座りする美しさ。

この後、お七が恋する吉三郎(新之助)が出てきて、2人の色模様となるのですが、さすがに当代の美形花形、2人寄り添うと、何とも言えぬ、艶やかながらも初々しい空気が舞台からあふれて、こちらもウキウキとした気分になります。

昼の部はこの場のみの出演となる新之助ですが、ちょっと声が出てなかったような気が…NHK『武蔵』で身体を絞りすぎたのかな?若衆役は勉強中、といった感じ。彼の荒事の芝居を観た事がないので、必ず観たいですね。

●亀蔵率いる追っ手たちが、「♪なんでだろ~なんでだろ~♪」と、今人気沸騰中のテツandトモの真似をしつつお七を探す場面も笑えました。(そりゃ、見つけられんわな>笑)

●最大の見せ場は、紅長(菊五郎)が、お七と吉三郎を除く全ての人々に、お土砂をかけまくって、みんなぐにゃぐにゃな場面。お客さんや劇場係のお姉さんにもかけて、彼らもぐにゃぐにゃになるんです(笑←もちろん、役者さんです)。

最後には、ツケ打ちの人や、定式幕を引く係の裏方さんにもかけてしまい、自分で口パクでツケ打ちをして、自分で定式幕を引いて終わると言う、何ともおかしなお芝居でした。

私は、「菊五郎さんのことだから、きっと客席にも乱入してお土砂をかけまくってくれるに違いないっ」と信じていたので、実はちょっと物足りなかったです(笑)。

共に見物した友人にそう言ったところ、「そんなこと、あるわけないやん。かけられたら困るやんか」。…私なら、喜んでぐにゃぐにゃしてるかな…(笑)。

●【火の見櫓】。この三月大歌舞伎昼の部、最大の名場面です。お七役の菊之助が、人形振りに挑戦。

(人形振り:役者の体を、文楽で使われる人形のような動きに見せる振り。ちゃんと人形遣いの人が出てくるので、役者は、その人形遣いに操られているような動きを見せなくてはならない)

…もう、感動しました。本当に、お見事、というより他に言葉が見つかりません。

もちろん、技術的な面では、時々人形遣いより一瞬早く、自分で動いてしまう、というような課題も多少はあります。

けれど、非常に難しい人形振りを、25歳という若さで挑戦した菊之助の必死さ、無心なひたむきさが、ただ恋人のピンチを救いたいお七の一途さと重なって、非常に見応えのある瞬間でした。

菊之助の舞台は、若竹のような印象を受けます。共演者、台詞、舞台上の全てのことを真摯に吸収し、ぐんぐん伸びて行くのを目の当たりにするような…。

激しく降り注ぐ雪の中、櫓の上で太鼓のバチを手に見得を切る菊之助と、その姿に送られた割れんばかりの拍手を聞きながら、「この人は数十年後、どんな役者になるんだろう」と、興奮にも似た期待感が、私の中で渦巻いていました。

***

と、ゆーことで、非常に見応えのある南座のお昼でした。いやー、ホント、良かったです…しみじみ…。



この記事を読み直す限り、菊之助はすでに2003年から驚くべき成長ぶりを見せつけていたのですね。この状態が今でも持続しているのですから、やはり彼は歌舞伎役者として稀有な才能と実力を持っているのだと感じます。

役者としても、人間としても、本当に素直でひたむきな人なのだろうなぁと思います。

流儀は違いますが、ある伝統芸能のお家では、「40歳になるまでは、教えられたことを、教えられたとおりにできることだけを考えて稽古を重ね、舞台に立て」という芸の教えがあるそうです。

現代劇への出演や『十二夜』の企画など歌舞伎以外の世界にも果敢に挑戦を続けている菊之助ですが、自らのホームである「歌舞伎」の枠を非常に大切にしているように感じます。だからこそ、歌舞伎の芝居に戻った時も破綻のない、素直で正統な舞台を見せてくれるのだと思います。

そして、もうひとつ発見したこと。

テツandトモって…2003年前後にブレイクしたんですね…。結構最近になって活躍し始めたように錯覚していました(ぼそ)。時の流れは速いものですねぇ…。


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宝塚歌劇宙組公演『傭兵ピエール』『満点星大夜總会』 [2003年 宝塚歌劇]

2003年3月16日配信

皆様、こんにちは。とろりんです。3月なのに小雪の舞う日が続いた大阪です。

さ、早速、「行った気になる、観た気になる」カンゲキ通信のお時間でございます。

今回は宝塚の宙組(そらぐみ)公演をご報告します。今日も初心者さんの友人2人を引き連れての、普及活動も兼ねたカンゲキでした(笑)。

演目は、次の2本立て。

◆ミュージカル 『傭兵ピエール-ジャンヌ・ダルクの恋人-』
◆レビュー・デラックス 『満点星大夜總会-The Stardust Revue Party-』

出演は、トップコンビ、和央ようか(わお・ようか)&花總まり(はなふさ・まり)を中心に、水夏希(みず・なつき)、彩乃かなみ、椿火呂花、ほか宙組生。専科より伊織直加、箙かおる(えびら・かおる)等の特別出演。

*『傭兵ピエール』(脚本・演出:石田昌也)*

直木賞作家、佐藤賢一の同名小説を舞台化したものです。

<あらすじ>
時は15世紀。後に「百年戦争」で知られる泥沼の戦争を、英国とずるずると続けているフランス。

この百年戦争で活躍したのが、「傭兵」と言われる、給料をもらって戦争に参加する兵隊達。戦時以外は略奪と強盗、人さらいが生業。

その数多い傭兵部隊の中でも、少しは名の知れた部隊「アンジューの一角獣」の隊長、ピエール(
和央)は、ある日、襲撃した一団の中に、不思議な空気を漂わせる娘に出会います。

自分は神の遣いだと名乗るその娘は、「フランスが解放されれば、私の身を貴方に捧げます」と告げます。

ピエールが出会ったこの娘こそ、百年戦争でフランス軍を勝利に導いたとされる「聖女」こと、ジャンヌ・ダルク(花總)。

やがてピエールは、魔女として捕らえられた彼女を救出すべく、たった1人で闘いを挑むことになります。

<感想>

◆残念ながら、原作の良いところが全く生かされてないな、という印象です。特にジャンヌ救出にピエールが向かう場面からの展開が速すぎ、流れすぎ。

◆原作では、まずピエールとジャンヌの出会いと交流を絡めつつ、オルレアンの解放とランスの戴冠式までの過程を描くのが第1の柱。

そして、異端として捕えられたジャンヌを、ピエールが決死の救出を決行し、逃避行をする。ここまでが第2の柱。

第3の柱が、歴史の上でのジャンヌ・ダルクの定説を覆す、ハッピーエンドまでの展開。

◆舞台では、この第1の柱(つまり、役や背景を紹介する説明的な部分)に時間をかけすぎてしまったために、第2・第3の柱が駆け足での展開になってしまったため、余韻に浸る時間も無く、終わってしまいました。

宝塚歌劇で発行している毎公演の舞台写真集、『ル・サンク』には、巻末に芝居の脚本が全編掲載されています。

この脚本を読み返してみると、原作で言う第1の柱に9ページも費やしており、逆に第2・第3の柱については、合わせて5ページしかかけられていません。この事を見ても、構成に偏りがあるのが明白ですね。

特に第2のクライマックス、ピエールがジャンヌを牢獄から救い出すシーン、そして第3のクライマックス、ピエールとジャンヌが、とある修道院で再会を果たしてから終幕までの展開が、あまりにもハイスピードで展開。わずか30分で3年が経過(笑)。

もっと第2~第3の柱に重点をおいて芝居を構成すれば、より緊迫感とロマンスのあふれる、重厚な舞台になったのではないかな、と思います。

◆しかし、ジャンヌ・ダルクを演じたトップ娘役、花總まりの存在感は特筆。彼女の演技によって、脚本のマズさがかなり解消されていた、といっても良いでしょう。

一般的なジャンヌ・ダルクの「聖女」のイメージを180度覆す、何をやるにも一生懸命で大真面目、純粋な(=思い込みの激しい>笑)少女役を好演。

これまで多かった高貴な役から一転、純粋で天然ボケな少女役を演じたわけですが、またも新境地開拓、といった感じ。

しかし、「私はジャンヌ・ダルクと言います。戦争が始まったらオルレアンに来てください」、「私はもう…神の声が聞こえないのです」など、要所要所を締める台詞の口跡が、とてもはっきりしており、芝居を引き締めるポイントになっていました。

◆主役ピエールを演じた宙組トップ、和央ようかも、脚本では描ききれていなかった、ピエールの人間的な深さを、自分なりに掘り下げた後が見られました。

何よりも、前半、ハチャメチャな行動を繰り返し、後半、牢獄で心身ともに痛めつけられ、深く傷ついたジャンヌを、静かに受け止める大きさがうまく出てました。

さすがにトップコンビですね。彼女達の好演が他の出演者達(←脚本での書き込みが、これまた中途半端)を、上手く引っ張っている舞台でした。

*『満点星大夜總会』(構成・演出:斎藤吉正)*

タイトルが漢字だらけ、でご推察がつくとおり、全編、チャイニーズ(香港系)の香り漂うレビューです。

娘役による剣舞あり、黒燕尾の男役総動員の大階段でのダンスあり、カワイイ熊猫カルテットあり、なぜか孫悟空あり、合同結婚式あり、アイドル誕生あり、と、めまぐるしく変化と進化を遂げる香港のように、エネルギーとスピードと極彩色にあふれたレビュー。

個人的には、星の砂漠に囚われた恋人達(水夏希&彩乃かなみ)のデュエットダンス、そして海軍兵(伊織直加)とかつての恋人(椿火呂花)をめぐる悲恋の物語が好きでした。

ストーリーダンスは、やはり情感がにじみ出るので、思わず見入ってしまいます。

そしてフィナーレの、大階段での黒燕尾の群舞も良かったですね~。男役の黒燕尾は、宝塚歌劇の真骨頂ですね。

***

いやぁ~、今回は芝居が「おいおい」って感じのモノだったので(ネタばれ)、友人の評価が気になるところでしたが、さすがに関西人たち、あらゆる場面でツッコミ入れまくり(笑)。全体的には「やはりラスト30分が、展開速すぎ」で一致。レビューは楽しんでくれたみたいで、良かった…。

ちょっと今回は昨年の月組公演に続く辛口コメントとなってしまいました(苦笑)。でも和央ようかの歌には、毎度の事ながら癒されます。

次回は、南座大歌舞伎、昼の部を報告します。ではでは~。


佐藤賢一さんの小説は、この公演より以前に『王妃の離婚』とこの『傭兵ピエール』を読んだことがあります。『傭兵~』を読んだ時の感想が、「これ石田先生好きそうだなぁ~」。よもや、その印象がそのまま舞台化されるとは思いもしておりませんでした(笑)。

この公演では芝居でハナちゃんがボブショートや甲冑を着用したり、ショーではアイドルに変身したり、大活躍でした~。

このころ、斎藤先生のショーでは、若手娘役による熊猫(パンダ)ちゃんカルテットやうさぎちゃんカルテット(@月組公演『BLUE・MOON・BLUE』)などのコスプレが必ず登場して、「宝塚のショーも、新しい感覚が入ってきたなぁ…」と思っていました(笑)。

そんな斎藤先生も、昨年は同じ宙組で『TRAFALGAR』という軍服萌え・最強ヴィジュアル萌えまっしぐらな作品を作ってくれましたしね☆これからも全力で宝塚の、男役の魅力を追及する作品を発表して欲しいです。


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カンゲキ☆ウラ通信第7回 バウ・ワークショップ雪組公演 [2003年 宝塚歌劇]

2003年3月6日配信

ども~、とろりんですっ。実は今年入って初めてのウラ通信です(笑)。

今日は、宝塚歌劇若手ワークショップの雪組公演を報告します。

ウラ通信読者の方なら、ご存知の方も多いかと思いますが、今年は宝塚バウホール開場25周年。その記念イベントの一環として、「バウホール5組連作ワークショップ」が企画されました。

植田紳爾先生が、私達も生まれていないくらい大昔に書かれた日本物の民話ミュージカルを、若手の演出家による演出の下で、その組の若手男役2人が主演する、という趣向のもの。

これまでに、

宙組(遼河はるひ、華宮あいり)、
星組(涼紫央、柚希礼音)、
月組(月船さらら、北翔海莉)、

の3組が上演され、残るは雪組と花組。まずは雪組公演からの観劇となりました。(このうち、全日程完売したのは花組のみ…汗)

演目は、

『春ふたたび』(壮一帆主演、大野拓史演出)
『恋天狗』(音月桂主演、児玉明子演出)。

***

全体の感想としては、「脚本で見せる大野」と、「演出で見せる児玉」という、2人の演出家のカラーが色濃く分かれた、という印象です。

*春ふたたび*

<あらすじ>
出雲の国の新領主、藤原道忠(壮)は、善政を敷き、若いながらも領民の信頼を受けています。

ある日、村の視察に訪れた道忠は、村民に「八重垣」という踊りを知らないか、と尋ねますが、村人は知りません。

その時、村人の1人が、やす(高ひづる)という名の乞食の老婆なら知っていると、彼女を連れてきます。

我が身を恥じつつも、「八重垣」を踊るやす。それを見て道忠の心は揺れ動き、そして確信します。

実は、やすと道忠は実の親子。あまりにも非情な理由で生き別れになった母を追い求め、道忠は再び出雲に戻ってきたのです。

しかし、その過去を恥じ続けてきたやすは、頑なに道忠を拒みます。やがて母の胸の内を察した道忠は、心を残しながらも去っていきます。我が身の恥を責めて号泣する、やす。そして…。

<感想>

演出ミスが、いかに舞台に致命的な結果を招いてしまうのか、痛感。大野先生が、植田脚本の世界を、どう描きたかったのか、ちょっと首をひねってしまいました。『月の燈影』が佳作だったために、とても楽しみにしていた分だけ、がっかり感が大きいです。

まず、くどすぎ(これは脚本・植田先生の問題)。そして、村人達の役どころに問題あり。なんでそんなにも親子の心情を理解できないんか!と観ていてストレスがたまってきます。まるで「さあ、親子と名乗れ、早く名乗れ」と、やすを追い詰めていく、アジテーターの集団のようにしか見えない。(若手の必死さが、かえってそんな印象を強めていました)

特にラスト近く、道忠が心を残しながらもやすの想いを汲んで去った後、「婆さまはあほじゃ!何で名乗ってやらんのじゃ!」「婆さまのばか!!ばかーっ!!」という村人の台詞には、「やすの気持ちが解からんあんたらの方が、よっぽどあほちゃうかーっっ!」と、思わず舞台に殴り込みをかけそうになるとろりん(笑)。

また、道忠とやすが、ようやく親子の証を認め、抱き合う終幕。なぜ村人勢揃いだったのか。舞台上、二人で無言で踊り合い、抱き合う方が余韻があったのに!!

<出演者>

●主演の壮一帆。

持ち前の端正な顔だちに、身に付いてきた気品と華は、どんどん磨かれていってます。

登場前、「お若くて、独り身かぁ~!!綺麗にしてねぇと♪」等々、村娘達のキャピキャピした会話があるのですが、思わず客席でも、キャピキャピしてしまった女が1人…(笑)

登場シーン、客席に後ろ姿を見せた後、すっと正面に向き直った時に放たれた美しさ、オーラは
「スター」を感じさせました。良い男役になってきましたね。

しかし壮くん、やすを見つめる眼差しが、「生き別れの母を慕う」という感じではなく、「理不尽な理由で引き離された恋人を想う」ものを感じさせてしまったのは、彼女の演技力の若さゆえか、
…とろりんの欲目ゆえか…(爆笑)。

●やすを演じた高ひづる。

…個人的には、疑問を感じる演じ方でした。まず、乞食の「老いさらばえた」老婆、という役なのに、仕草はテキパキ、台詞はえらくピンシャンとしていて、ちょっと違和感が。(もうちょっと弱々しく演じて欲しかったなぁ…)

でも「八重垣」を踊った時の手の動き、足さばきはさすが。

●白眉は、歌う村の女を演じた、研3の湖城ゆきの。その役名どーり、歌う役(笑)なのですが、その歌がめちゃウマ!!あんなに地声が無理なく伸びる人は、初めて。その場で、プログラムをめくりたい衝動にかられたのは久しぶりです。(客席真っ暗なんであきらめましたが)

◆しかし今日は、とんでもないハプニングが。

本舞台真上に設置されているライトが、落下しかけたんです!

幸い、ライトを吊り下げていたロープ(?)が一本だけひっかかって、それを頼りに、そろそろと引き揚げることができたのですが、ちょうど、村人達が控えている位置のほぼ真上だったので、あのロープがつながっていなかったら…と思うと、ゾッとします。

舞台では、ちょうど「おお!御領主様のお越しじゃ!」と庄屋が言った瞬間に、がくん!とライトが吊り下がってきたので、「壮くん、宙づりで登場?なんて斬新な演出なんや!んなワケないやろ」と思わず一人ボケ一人ツッコミ(笑)。

客席(と、客席から登場する壮くんも、であろう)が青ざめた一瞬でした。

*恋天狗*

<あらすじ>

ある村に住む、いたずら好きの小天狗(沙央くらま)は、村の娘、八重(白羽ゆり)に片思い。でも八重は村の若者、弥太(音月)に恋していて、あの手この手でアタックしますが、鈍感な弥太は気付きもしません。

何とかして八重と話がしたい小天狗は、弥太に化けて八重に接近。本物の弥太と、小天狗の化けた弥太が入れ替わり立ち替わりしているうちに、何と弥太は、庄屋(磯野千尋)から、小天狗と対決する羽目に。(実はコレ、弥太に化けた天狗が引き受けた)

「どうか、弥太さんを勝たせてあげてくださいっ」と地蔵に必死に頼む八重の為に、小天狗はわざと弥太に負けます。これで一件落着!と思いきや…。

<感想>

幕が上がると、一面に咲き誇る大きな桜の木。『春麗』の大道具、上手く使いまわしたね、児玉先生…(微笑)。彼女は、客席の視線を一気に舞台に引き込む演出が上手いと思います。

『春ー』が春の花曇のようにしんみりとしていたのに対して、こちらはカラッと青空が広がるような、楽しい、明るい舞台に仕上がっていました。

<出演者>

●主演の音月桂。

弥太自身と、天狗が化けた弥太の二役を、仕種だけでなく、声音もまるっきり変えて、生き生きと好演。

音月が、これほどの演技力を見せるとは思わなかったので、嬉しい驚きです。

●相手役の白羽ゆりは、経験の積み重ねがしっかりと舞台に現れており、音月をさりげなくリードしながらも、恋する娘のウキウキとしたかわゆらしさと、恋に突き進むおませぶりを嫌みなく演じて好演。

●小天狗を演じた沙央くらま。

体当たりの一生懸命な演技が好感をよびました。

フィナーレには壮くんも道忠役のまま出てきてくれたのですが、(1時間半、何してたんやろう…)いかんせん、壮くん以外の出演者は全員、村人役。楽しそうに皆が踊る中、一人気品ある狩衣姿の壮くんの所在無さげぶりが、いとおしく感じられました(笑)。

***

総じて、今回のワークショップは、二人の演出家の長所と課題が浮き彫りにされた感があります。

◆大野は、自身の脚本で見せる、最小限の台詞で緻密な、繊細な世界を展開させる構成力は素晴らしいものがありますが、誰かの作品を、自分の世界の中で描くのは不得手なのでは、と感じました。(大先輩の脚本を扱う、ということに対する遠慮もあったでしょう)

脚本構成力がしっかりしている、という点においては、他の若手演出家の中でも抜き出たものがあると思うので、今回の機会を糧に、益々自分の世界を構築していって欲しいです。

◆対する児玉は、二度目のワークショップ参加ということで、他人の脚本をどう自分のものにするか、という点で大野よりコツをつかんでいたこともあるでしょうが、とにかく、観客の意識を、一気に舞台に集中させる演出力はあります。

しかし、そのダイナミックな演出力は認めますが、舞台の基本となるべき脚本は、あまりにも観客無視、かつ破綻が多いので、(『歌劇』3月号の天野道映の劇評を参照)こちらの向上に力を入れてほしいです。(もしかしたらショーを作らせたら良いかもしれない)

とろりんさん、若手を語らせると熱くなるので(笑)、今回の若手バウレポは、全てウラ通信で語らせていただきます。

次回は花組か…らんとむとみわっちか…もっとエライことになるわな…(笑)。

…お楽しみに~…?(笑)


バウ・ワークショップかぁ…懐かしいなぁ…。植田先生の『恋天狗』、『春ふたたび』、『おーい春風さん』の3本のうち2本ずつ上演したんですよね。

今でも、まぶしいスポットライトの中、ゆっくりを客席を進んでくる壮くんの神々しい姿を思い出します。

花組では蘭寿とむ(らんとむ)主演で『恋天狗』、愛音羽麗(みわっち)主演で『おーい春風さん』を上演したんですよね。

『恋天狗』もたいがいでしたが(暴言)、とにかく『おーい春風さん』がこれから新人公演でも活躍していくであろう新人男役スターが演じるには大変難しい(控え目な表現)「角兵衛獅子」一座の年長者がという役どころ。もちろん、他の出演者も角兵衛獅子一座の子どもたちで、唯一といっていい大人が矢吹翔さん演じる親方役だけという。しかもその親方が極悪非道という、どーしよもうないキャスティングでした(暴言その2)。

それにしても、この時の矢吹翔さんの色気はただならぬものがありましたね~(え?)。

物語後半、回心した親方が最年少のおちか(桜一花ちゃん)の頬をそっとなぜるシーンがあったのですが、その手つきと眼差しが色気ダダ漏れで、「お、親方、そのまま押し倒すんちゃうかっ」とドキドキしてしまったほどでした(←R15指定)(←妄想まっしぐら)。

『月の燈影』、『エリザベート』新人公演と、らんとむファンとして彼女の舞台を観劇したのはこれで3度目だったのですが、この時のらんとむにはあまり良い印象がありません…。

あまりに演りようのない役でもあったのですが、この頃のらんとむは、男役としての技量は(若手の中では)高くても、どうしても「華が足りない」と感じる部分があって…。この時代は彼女の上にも下にも華のある男役がひしめいていたので、なおさらだったかもしれません。

新公卒業後から宙組に移籍するまでの4年間は、らんとむにとって苦しい時代だったと思います。(途中、2006年に『マラケシュ・紅の墓標』でのヒットはありましたが)

この公演から8年。宙組で男役芸に磨きをかけてきたらんとむも、ついにトップスターとなるのですね。なんだか、まだ実感がわきません・・・。


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