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2003年 南座三月大歌舞伎 昼の部 [2003年 歌舞伎]

2003年3月24日配信

皆様、こんにちは。

梅の香りも名残となってきましたね。いよいよ、春ももうすぐ、というところでしょうか。

本日は、2ヶ月ぶりの歌舞伎!!南座で興行中の、三月大歌舞伎を報告します。

主な出演は、市川團十郎、新之助、尾上菊五郎、菊之助、中村芝雀、中村福助(『源氏物語』のみ)。プチ團菊祭、といった感じですね!!

(注:「團菊祭」とは、毎年5月に歌舞伎座で行われる定例興行。歌舞伎界の大看板・市川團十郎一門と尾上菊五郎一門の責任興行なので、このような名称がついています。)

演目は昼の部、以下の三本。

◆『扇屋熊谷』(團十郎、菊之助、芝雀)
◆『保名(やすな)』(菊五郎)
◆『松竹梅湯島掛額(しょうちくばい ゆしまのかけがく)』(菊五郎、菊之助、新之助)

巷では関西では初上演となる、新之助主演の夜の部『源氏物語』が大きな話題を呼んでいますが、まだまだ初心者としては、1つでも多くの芝居を観たい、と言う友人と意見が一致したので、今回は昼の部。

予約センターで「昼の部2枚」とチケットを申し込むと、受付の方が「お客様、『源氏物語』は、昼の部ではありませんが…」。すみませんね、ひねくれ者たちで(笑)。

では、早速まいりましょう~。

■扇屋熊谷■

<あらすじ>

源平合戦の折、一ノ谷の戦いでの熊谷直実と平敦盛のエピソードは有名ですが、歌舞伎にはこの史実を巧みにアレンジしたお芝居がいくつかあります。

このお芝居もその1つで、史実を逆流し、実は熊谷と敦盛が、戦の前に既に京の都で出会いを果たしていた、というお話。

京で扇屋を営む扇屋上総(坂東彦三郎)は、昔の恩に報いるため、平敦盛(菊之助)に娘の扮装をさせて匿っています。上総の娘、桂子(かつらこ:芝雀)は敦盛に片思い。

そこに、どこで聞きつけたか、扇屋に追っ手が差し向けられ、敦盛を出せと迫ります。追い詰められた上総を救ったのは、偶然、軍扇を注文に来ていた熊谷直実(團十郎)。熊谷の義心に感じ入った敦盛は、戦場での再会を約束します。

<感想>

関西では44年ぶり、歌舞伎としても10年ぶりの上演です。

まず扇屋の場、男性である敦盛が扇折の娘に扮している、という趣向が面白い。そして敦盛に思いを寄せる桂子が、ホンモノとは知らずに娘姿の敦盛をかきくどく場面は、女形同士の華やかな空気が漂います。

五条橋の場で、花道でぶっかえって見目麗しい若武者姿に早替わり、という演出も、観客にとっては嬉しいですよね。

菊之助(小萩実は敦盛)は、瑞々しい娘姿から、気品ある平家の若君に立替わる、その変化の切り替えが非常に鮮やか。菊之助の清潔な娘方の色気が、若君の上品さと上手くミックスされています。当たり役になるのでは?

対する團十郎(熊谷直実)は、さすがの存在感。馬上でのぶっかえりもお見事!!

五条橋の場、この2人がそれぞれ扇を片手に舞う場面は、テンポが良くて、ここだけでも名場面だと思います。

芝雀(桂子)は、出番が最初の10数分でありながら、ぽってりとした可愛らしさでとろりん悩殺(笑)。商いを手伝うよう頼まれても、お人形さんの相手に「わしゃ、忙しゅうて手伝えぬことじゃわいなァ」と、世間知らずな大店お嬢様ぶり炸裂(笑)。かわゆい…。

■保名■

有名な歌舞伎舞踊。よく上演されていますが、(1月の歌舞伎座でもかかりました)私は初見です。

恋人であった榊の前に突然死なれてしまった、安倍保名(菊五郎)は心乱れ、狂ってしまいます。亡き恋人の形見である小袖を片時も離さず、保名は、彼女の面影を見つめてさまよいます。

<感想>

菊五郎というと、昨夏の芝居『らくだ』が強烈に印象に残っていて、私の中では「菊五郎=リアルに江戸のおやじ」みたいな図式がインプットされています(笑)。

それだけに、今回の『保名』は、ワイルドな感じになるのかしら(どんな感じだ)と、勝手に思っていたのですが、想像以上に憂愁と品格を感じさせる舞台でした。

やはり、若い頃(今も充分に若々しいが)の女形としての経験の積み重ねが、このような舞踊や時代物の若衆役で生かされるのだな、と実感しました。

■松竹梅湯島掛額■

【吉祥院お土砂の場】

八百屋の娘、お七(菊之助)は、吉祥院の寺小姓、吉三郎(新之助)と恋仲。しかし思いがけぬ横恋慕が入り、2人は添うに添われぬ恋を嘆きます。

お七を可愛がっている近所の紅屋長兵衛(菊五郎)、通称紅長(べんちょう)は、ふとしたことから、真言秘密の「お土砂」を手に入れます。この「お土砂」、とても不思議な魔法の砂で、この砂をかけられると、たちまち体がぐにゃぐにゃになってしまうのです。

さあ、ここから大騒動が巻き起こります。

【火の見櫓の場】

ある事件がきっかけでピンチに追い詰められた吉三郎を救おうと、お七は決死の覚悟で、火の見櫓の太鼓を打ち鳴らす決意をします。雪が狂ったように降り続ける中、お七の命と引き換えにするかのように、太鼓の音が力強く、江戸の街に響くのでした…。

<感想>

これはもう、音羽屋、特に菊之助の一人舞台、といった感じ。菊之助の役者としての存在感、可能性に感動。

●まず【お土砂の場】最初の見所は、お七が吉祥院の欄間に彫られている天女に化ける「天人お七」の演出。菊之助演じるお七が紫の振袖姿で、欄間の中で金の蓮を持って横座りする美しさ。

この後、お七が恋する吉三郎(新之助)が出てきて、2人の色模様となるのですが、さすがに当代の美形花形、2人寄り添うと、何とも言えぬ、艶やかながらも初々しい空気が舞台からあふれて、こちらもウキウキとした気分になります。

昼の部はこの場のみの出演となる新之助ですが、ちょっと声が出てなかったような気が…NHK『武蔵』で身体を絞りすぎたのかな?若衆役は勉強中、といった感じ。彼の荒事の芝居を観た事がないので、必ず観たいですね。

●亀蔵率いる追っ手たちが、「♪なんでだろ~なんでだろ~♪」と、今人気沸騰中のテツandトモの真似をしつつお七を探す場面も笑えました。(そりゃ、見つけられんわな>笑)

●最大の見せ場は、紅長(菊五郎)が、お七と吉三郎を除く全ての人々に、お土砂をかけまくって、みんなぐにゃぐにゃな場面。お客さんや劇場係のお姉さんにもかけて、彼らもぐにゃぐにゃになるんです(笑←もちろん、役者さんです)。

最後には、ツケ打ちの人や、定式幕を引く係の裏方さんにもかけてしまい、自分で口パクでツケ打ちをして、自分で定式幕を引いて終わると言う、何ともおかしなお芝居でした。

私は、「菊五郎さんのことだから、きっと客席にも乱入してお土砂をかけまくってくれるに違いないっ」と信じていたので、実はちょっと物足りなかったです(笑)。

共に見物した友人にそう言ったところ、「そんなこと、あるわけないやん。かけられたら困るやんか」。…私なら、喜んでぐにゃぐにゃしてるかな…(笑)。

●【火の見櫓】。この三月大歌舞伎昼の部、最大の名場面です。お七役の菊之助が、人形振りに挑戦。

(人形振り:役者の体を、文楽で使われる人形のような動きに見せる振り。ちゃんと人形遣いの人が出てくるので、役者は、その人形遣いに操られているような動きを見せなくてはならない)

…もう、感動しました。本当に、お見事、というより他に言葉が見つかりません。

もちろん、技術的な面では、時々人形遣いより一瞬早く、自分で動いてしまう、というような課題も多少はあります。

けれど、非常に難しい人形振りを、25歳という若さで挑戦した菊之助の必死さ、無心なひたむきさが、ただ恋人のピンチを救いたいお七の一途さと重なって、非常に見応えのある瞬間でした。

菊之助の舞台は、若竹のような印象を受けます。共演者、台詞、舞台上の全てのことを真摯に吸収し、ぐんぐん伸びて行くのを目の当たりにするような…。

激しく降り注ぐ雪の中、櫓の上で太鼓のバチを手に見得を切る菊之助と、その姿に送られた割れんばかりの拍手を聞きながら、「この人は数十年後、どんな役者になるんだろう」と、興奮にも似た期待感が、私の中で渦巻いていました。

***

と、ゆーことで、非常に見応えのある南座のお昼でした。いやー、ホント、良かったです…しみじみ…。



この記事を読み直す限り、菊之助はすでに2003年から驚くべき成長ぶりを見せつけていたのですね。この状態が今でも持続しているのですから、やはり彼は歌舞伎役者として稀有な才能と実力を持っているのだと感じます。

役者としても、人間としても、本当に素直でひたむきな人なのだろうなぁと思います。

流儀は違いますが、ある伝統芸能のお家では、「40歳になるまでは、教えられたことを、教えられたとおりにできることだけを考えて稽古を重ね、舞台に立て」という芸の教えがあるそうです。

現代劇への出演や『十二夜』の企画など歌舞伎以外の世界にも果敢に挑戦を続けている菊之助ですが、自らのホームである「歌舞伎」の枠を非常に大切にしているように感じます。だからこそ、歌舞伎の芝居に戻った時も破綻のない、素直で正統な舞台を見せてくれるのだと思います。

そして、もうひとつ発見したこと。

テツandトモって…2003年前後にブレイクしたんですね…。結構最近になって活躍し始めたように錯覚していました(ぼそ)。時の流れは速いものですねぇ…。


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