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劇団四季ミュージカル 『コンタクト』 [2003年 劇団四季]

2003年3月1日配信

皆様、こんばんは。とろりんです。

「1月はいく、2月はにげる、3月は去る」。いや~まったく、昔の人は言葉遊びが巧いですねえ。2月もまたたくまに逃げてってしまいました。

さて、今回は劇団四季、大阪では久々の新作公演となりましたブロードウェイ・ミュージカル『コンタクト』を報告します。

本場ニューヨーク・ブロードウェイでは2000年に初演され、「ダンスプレイ」と称されて旋風を巻き起こしました。そして、その年のトニー賞で最優秀振付家賞ほか4冠を達成した、全く新しい感覚のミュージカルです。

どんな風に「新しい」のか。

舞台は3つの物語が、オムニバス形式でつづられて行くのですが…。

①主題歌など、オリジナルの音楽が、全くない。使用される曲は全て、クラシックやジャズ、ロックなど、 あらゆるジャンルから選ばれた既存の曲。

②ミュージカルの定番、出演者による歌が全くない。セリフも最小限。何よりも、出演者の間に「言葉(声)による交流」が、全く無い。

③そう。この舞台、表現手段はダンスのみ!!

***

では、全体の構成と、それぞれの感想から。

【Part1「Swinging」】

15世紀のフランスの、森のような広大な庭が舞台。

フラゴナールの絵画を思わせる、大きなブランコで、貴族の男と、その男の愛人と思われる、愛らしいピンクのドレスを着た女性が、嬌声を上げて戯れています。

やがて、女にせがまれて、男はワインを取りに屋敷へ。

途端に女は、そこに残った召使の男を大胆に誘惑。2人の行為が最高潮に達した瞬間、貴族の男が戻ってきます。そこで起きるのは…?

【カンゲキレポ】

「え、四季でもこんな場面がっ」と、思わずこちらが赤面してしまうような、大胆でエロチックな表現のダンスが続くのですが、それらが全て、大きく揺れるブランコの上で繰り広げられるのです。非常にアクロバティックで大きな動き。出演者の技量の確かさを実感させられました。

実はこのPart1、ラストに大きな意味を持つ「オチ」があります。それは…内緒~♪

【Part2 「Did You Move?」】

1950年代のアメリカが舞台。あるレストランに、いかにも強そうな男と、気の弱そうな、青いドレスを身にまとった妻が現れます。

男は妻に対して非常に暴力的・威圧的で、妻がおずおずと、でも一生懸命に話し掛けても、「話すな。黙って皿をたいらげろ!」。

そして、「絶対に席を立つな」と言い残して、料理を取りに行きます。

妻の、ただ1つの楽しみは、男がテーブルに立った時だけ、ひっそりと自分の空想の世界に浸ること。やがて彼女は白昼夢の中で、そのレストランのウエィター長と軽やかに踊り始めます。

【カンゲキレポ】

この、通称「ブルードレス(の女)」役を演じたのは、林下友美。私の中で、今夜の舞台の白眉です。今回は、彼女に、ンサーとしての真骨頂を見た気がします。

Part2は、レストランを舞台に、ブルードレスの女を取り巻く現実の世界と空想の世界が錯綜しつつ、展開していきます。

ブルードレスが空想の中で、思いっ切り軽やかな踊りを見せた、と思った次の瞬間に、彼女は現実の世界、レストランの席に戻って、夫の言うままに、椅子に座って、おどおどと縮こまっています。

空想の世界での、どこまでも伸びていきそうな、しなやかな手足。次の瞬間、現実に戻って、まるで木のようにぎくしゃくする手足。

先ほどまでの激しいダンスで、心臓もドキドキして、身体中の血も勢いよく流れているであろうのに、それを全く感じさせずに、息を潜め、夫をおずおずと見上げる。その身体の躍動と収縮。その動きの変化に、自分の身体を
ギリギリのところでコントロールしうる、林下のダンサーとしての実力を再認識させられました。

【Part3 「CONTACT」】

現代のNYが舞台。

エリート広告マンのマイケル・ワイリーは、その仕事ぶりを高く評価されながらも、自分自身の存在価値に悩み、ついに自殺まで思いつめます。

結果的に自殺に失敗して、意識が混乱し、朦朧とした彼は、いつしか場末のプール・バーに。そこで彼は、まるで光のようにまばゆい、黄色のドレスの女に出逢います。

【カンゲキレポ】

Part2のブルードレスを観た後に、「…もう1回観ても良いかも」と、チラッと思ったのですが、このPart3を観ているうちに、「…絶対、もう1度観よう!!」と決意してしまいました(苦笑)。

ダンスが、かくもこれほどまでに心を揺さぶるものなのか、と感嘆せずにはいられない舞台でした。

もう、この幕は何をどう伝えれば良いのか、分かりません(ここまで長文書いといてか>笑)。

とにかく、ダンスがスゴイ!!

***

観終って、強く実感したのは、「…この時代だからこそ、誕生したミュージカルだ」いうこと。

時代もシチュエーションも違う、3つのドラマの根底に、たった1つ、共通するテーマ。それは、他人との「コンタクト(=心のつながり)」への「渇き」と「絶望」。

奔放な肉体の接触を繰り返しても、「心」のコンタクト、つながりが見えないPart1。

相手とコンタクトを取ろうと話しかけ、努力しても、全て否定されてしまうPart2。

仕事のためとはいえ、「物」との付き合いしか知らなかった人間が、初めて「人間」とのコンタクトを求めようとするPart3。

主人公達は、何の為に生きてきたのか分からない「疲労感」と「虚無感」を、常に抱えています。

「自分自身の存在価値への疑問」、そして「諦め」。「人生への疲労感」「虚無感」は、現代の社会にも共通する部分ですよね。

その現代の「生」に対峙し、初めて「コンタクト」を求めたからこそ、このミュージカルは、現代を生きる人々に支持されたのではないでしょうか。

甘ったるい閉塞感を感じさせるPart1。

苦い現実を見せつけられたまま、絶望感を抱かせるPart2。

そして、その閉塞感と絶望の向こうに、かすかな希望を見出すPart3。

その希望は、人間が、互いに「コンタクト」を求めた時に、初めて見えるもの、なんだな…と、思わずに真剣に考えるとろりんでした(笑)。

***

もうひとつ、文字通り「ふれあい="コンタクト"」が表のテーマであるとするなら、合わせ鏡のように存在するテーマが、「女性の進化の歴史」ではないでしょうか。

奔放な恋愛をしているようでありながら、実はその世界から抜け出せない、籠の鳥のような「ブランコの女」。

抑圧され、束縛され、沈黙を強いられ、白昼夢の中でしか自分を解放できない、孤独で哀れな「ブルードレスの女」。

全ての男性にとって、女神のような存在感で周囲を圧倒し、自分の意志を主張するかのように、軽やかに、しなやかに、力強く、凛然と男達の間を踊り抜ける「イエロードレスの女」。

ラストシーン、イエロードレスの女が男に手を差し伸べるシーンは、象徴的です。

籠の鳥のように生き、男達に抑圧されながらも、女達が密かに持ち続けてきた母性愛の強靭さ、逞しさを、そしてそれが顕されていく女性の内的な進化の過程を、鮮やかに表現しているように見えます。

そのしなやかさ、逞しさを内に秘めているからこそ、女性は、歴史や社会のあらゆる不条理にも耐え、打ち克ってきたのではないか、と。

またラストシーンが良いんですよ~!!観てください(笑)。

***

終演後は、劇団四季友の会会員イベント、バックステージツアーに参加してきました(笑)。写真撮影は禁止でしたので、残念です。

初めて劇場の「裏側」を見る事ができたのですが、一番驚き、かつ印象的だったのは、その広さ。舞台空間と同じくらい、いやそれ以上の空間が、舞台の裏にがら~んと存在。

勿論、本舞台に上がることも出来て、Part3の場面で初めてワイリーとイエロードレスが出逢う、バーの椅子にも座る事ができました!!

ワイリーの座った椅子と、イエロードレスの座った椅子、どちらに座ってみようか迷ったのですが、「やはりここは女性にあやかって…」と、いうことで、イエロードレスの座る方に、座ってきました(笑)。

これで私もイイ女に…なれるわけないやろ、椅子に座っただけで(笑)。

***

昨年秋の、宝塚花組新人公演『エリザベート』並みの長文となってしまった今回のレポですが、どれだけとろりんさんが感動したか、よく解かると思います(笑)。

機会があれば、ぜひぜひ観てくださいっ。(ちなみに私は、観終わった瞬間、友人の携帯にお誘いメールを打ちました>苦笑)

次回は、宝塚歌劇宙組公演です。またよろしくお願いします。



来年早々、自由劇場で再演が決まった『コンタクト』。私は大阪公演初演を観たわけですが、とってもステキでしたね。「ミュージカルはファミリーで観るもの」という概念を鮮やかに打ち破った「大人のミュージカル」でした。

科白がほとんどなく、すべてがダンスだけで進行していくこの舞台。ダンサーには身体能力や踊りの技量だけではなく、その内にある葛藤をダンスに乗せて観客に伝えていくという表現力も同じくらい求められるのです。

私にとっての「ブルードレス」は、今でもこの時に拝見した林下友美さんのイメージが鮮烈ですね。

今は四季を離れてしまわれましたが、『コンタクト』を思い出すとき、大きな花がパアッとその花びらをほころばせるように、青いスカートをひるがえしながら舞台を踊り抜ける林下さん、夫の前で硬く身をすくませる林下さんの姿が思い浮かびます。

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宝塚歌劇雪組公演 『春麗の淡き光に』/『Joyful!!』 [2003年 宝塚歌劇]

2003年2月2日配信

皆様、こんにちは。とろりんです。

西日本ではインフルエンザが過去最高に猛威を振るっておりますが、お元気でお過ごしでしょうか?

さて、今回は、久々に(って、2ヶ月しか経ってないが)宝塚歌劇の舞台です。今回は、雪組新トップコンビ、朝海ひかる&舞風りらのお披露目公演です。

演目は、大劇場久々の王朝モノ、ミュージカル『春麗の淡き光に-朱天童子異聞』(植田神爾 作・演出)ダンシング・レビュー『Joyful!』(藤井大介 作・演出)の2本立てです。

***

では、まず『春麗―』より。(最初に当時の情勢から)

時は平安時代。世は藤原氏の時代ですが、その藤原氏ですら、北家(ほっけ)・南家(なんけ)・式家(しきけ)・摂家(せっけ)と内部分裂し、同族でありながら激しい権力闘争を展開。徐々に、藤原兼家率いる北家が勢力を掴みつつありました。

同じ藤原一族でありながら、北家(ほっけ)による専横政治に反発する南家・藤原保輔(朝海)は、毎夜「朱天童子」と名を変え、北家の者への襲撃を繰り返していました。

源頼光(貴城けい)、頼信(壮一帆)兄弟は、朝廷(実際には藤原北家)より、朱天童子討伐の命を受けます。しかし、頼光と保輔はその昔共に学を修めた親友同士。そして彼等の妹、若狭(舞風)は、実は朱天童子=保輔の恋人だったのです。

貴族社会の不正を正すべく、自らの道を突き進む保輔。友情と、源氏一族の頭領としての宿命・責任との狭間に立ちすくむ頼光。離れ離れになっても、ひたすら一途に恋人を慕い続ける若狭。兄と共に勅旨を受けながらも、哀れな妹を気遣う頼信。

全ての運命は、大江山に終結します。

***

まずは全体の印象から。

…名作とは言いがたいですが(暴言)、面白かったですよ、色んな意味で(笑)。

よく言えば、平安時代という長い時代の史実のポイントを、一時期にギュッと絞り込んだ、という感じです。(悪く言えば、時代考証かなり無視>笑)

例えば…

①王朝モノなのに、何故オープニングの群舞が 「元禄花見踊り」やねん!なんで着流しやねん!(笑)

ここを公達&上臈の舞にして、なおかつ舞踊劇風に当時の情勢や登場人物の関係を暗示させた方が分かりやすい展開になったんではないでしょうか…。 (保輔と若狭の関係が、劇中では希薄になってしまったので、なおさらここで、しっかりと見せておくべきだったのでは…)

②保輔「諸行滅上、盛者必衰。おごれる者は久しからず!」
→それ『平家物語』やろ!

③兼家「欠けることのない望月のように、我が一族も安泰じゃ~!」
→それ息子(藤原道長)の言葉やん!

…とまあ、ツッコミ満載、疑問満載なのに、楽しめてしまうこの不思議(笑)。

展開が冗長な場面などもありましたが、やはり演出家が長らく宝塚歌劇の演出を務めているだけあって、名場面が随所に散りばめられているのはさすがです。

文句の多いオープニングですが(笑)、その群舞の美しさ。日本舞踊で、あそこまで群舞が揃うのって、宝塚ならではですね。

他にも、頼光&頼信兄弟が「青海波」を舞う場面や、保輔と若狭の別れのシーン、ラストの大江山、保輔と頼光の息詰まるシーンなど、「型」の美しさに、こだわりが見られた舞台でした。

***

ショーは、ひたすらダンシーング!!って感じのショーです。この演出家の特徴で、ひたすら勢いで押しまくってくれます。

しかし全編、ひたすら勢いで押してくるので、途中でちょっと疲れてしまいます。観客にホッと息をつかせる演出、というのも必要だと思いますね。(ちょっと昔のショーを参考にしてね、藤井君)

圧巻は、プロローグと中詰めで展開された、雪組生総勢69名によるラインダンス!!

上手花道から下手花道にズラリと勢揃い、一糸乱れぬラインダンスには、感動で鳥肌が立ちました。ラインダンスで、全員の足が上がるたびに鳥肌が立つなんて、初めての体験です。

足を踏み込むタイミング、挙げる角度まで、全員バッチリ揃ってるんですよ!69人全員ですよ!!意外なところで「宝塚のスゴさ」を再確認しました。

***

新トップとなった朝海ひかる。

芝居ではアウトローの孤独をにじませながらも熱い血を通わせる貴族の青年を好演。ショーになると、まだまだ「ダイヤの原石」という感じで存在感が埋もれてしまいがちなのですが、トップとしての風格、オーラはこれからどんどん磨かれて、輝きを放つことでしょう。

何より組子が、朝海を盛り上げよう、押し出そう、としているのがすごく伝わってきます。

朝海の相手役として、花組より移籍した舞風。

ショーのクライマックス、大階段での、朝海とのデュエットダンスでの衣裳は、そんな舞風の境遇とベストマッチで、微笑ましくて、思わずジーンとしました。(どんな衣裳だったかは、内緒。東京公演をお楽しみに!!)

芸名の通り、風にふわりと舞ってしまうような柔らかくてしなやかなダンスが、とても素敵です。

このコンビはダンサーなので、随所でハイテクニックなダンスを見せてくれました。大技リフト、連発!!

まだまだ未知数ですが、とても期待できるコンビです♪

2番手として朝海を支えた、貴城けい。

日本物の作品への出演機会が多いだけに、芝居ではさすがの安定感。大詰めの台詞が流れすぎて、余韻が薄くなったのが残念でしたが、ショーでは、天性の華やかさで、しっかりと朝海を盛り上げ、支えているのが頼もしいですね。

とろりんさん一押しの壮一帆。

芝居では源頼信という、実質的に3番手の役どころ。源氏の頭領である兄とは違い、妹の心中を気遣って手助けをしてやる、次男らしい若々しさが壮本来の持ち味と上手くミックスされてて、良かったですよ~。

私は午前の部を観劇したのですが、終演後、ふと見回すと、何故か今日は男性が多い…。

「?」と思っていると、「タカラヅカ・バレンタイン・スペシャル」の看板を発見。

午後の部は、チケットぴあの主催で、親子、友達、カップル、夫婦など、男女ペアで観劇すると、チケット代が半額になるというイベント公演だったのです。

近年、男性ファンも徐々に増えているという宝塚歌劇。このようなイベントを通じ、もっとファンが増えると良いですね。

今日も長文、失礼いたしました。今日はこの辺で。

次回は劇団四季、大阪では久々の新作『コンタクト』です。私も初めて観るので、めちゃくちゃ楽しみです!

お楽しみに~~~☆☆☆



久しぶりに宝塚のカンゲキレポが発掘されてきました(笑)。突っ込みどころ満載なのに楽しめてしまう、というのは、もはや植田クオリティのひとつですね。

朝海ひかると舞風りらのトップコンビは、今振り返るととっても面白いコンビでしたね。

お芝居では恋愛の温度を感じさせず、すれちがっているのかな…と思いきや、ショーなどで組んで踊り出すと、もう他の追随を許さない程の圧倒的な空気感に包まれていて。特に大階段でのデュエットダンスは毎回素晴らしくて、呼吸を忘れてしまうほどでした。

朝海の相手役は舞風しか考えられなかったし、舞風が相手役となるべき男役は朝海しかいなかった。そんな不思議なつながりを感じさせるコンビでした。

「タカラヅカ・バレンタイン・スペシャル」って、いつから始まったのでしたっけ?2001年の星組公演(『花の業平』『夢は世界を翔けめぐる』)からでしょうか?これからもこういう観劇企画はあると良いですね~。
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2003年 松竹座寿初春大歌舞伎 昼の部 [2003年 歌舞伎]

2003年1月21日送信

皆様、こんばんは。とろりんです。

暖冬暖冬と言いつつも、寒い時はしっかり寒い日本の冬。インフルエンザが猛威を振るっておりますが、お元気ですか?

さて、今回は、初春の夢続行中の、大阪松竹座の歌舞伎興行、昼の部をレポいたします。

昼の部は、とろりんさんの激しくイチ押し御贔屓、中村梅玉(ばいぎょく)の主演作品もあり、ウキウキ(笑)。とろりん母も見物。演目は、以下の通り。

『春調娘七種』(はるのしらべ むすめななくさ)
『将軍江戸を去る』
『中村松江改め 2代目中村魁春 襲名披露口上』
『二人夕霧』(ににんゆうぎり)

◆『春調娘七種』は、短時間の舞踊劇。

歌舞伎の芝居のジャンルに、「曽我物」というのがあります。(日本史にちょこっと出てくる、鎌倉時代、曽我兄弟の仇討ち事件から題材をとっているお芝居)

それで、江戸では、吉例ということで、曽我物の狂言を上演するのが古くからの慣わしだったそうです。

初春七日、七草を恵方に向かって打ち鳴らすという古式の行事に則って、敵討ちと言う悲願成就に勇み立つ曽我兄弟(翫雀・扇雀)と、それをいさめる静御前(孝太郎)、という風景を、舞踊で演じます。

七草を打ち据えるような振りが随所に取り入れられているのが、お正月の見世物らしい雰囲気です。いやー、めでたい、めでたい♪(だいぶ過ぎているが)。扇雀の端正な美貌が、印象に残りました。

◆新歌舞伎『将軍江戸を去る』

新歌舞伎というのは、明治時代以降に創られた作品で、台詞も現代に近い言葉で上演されます。

1868年、江戸城明渡しの前夜、江戸幕府最後の将軍となった徳川慶喜(中村梅玉)と、彼をめぐる側近との葛藤を通じ、去り行く時代への郷愁、新しい時代への出発を描きます。

なぜ上方の劇場で江戸の、しかも幕末の話をするのかしら…?今年が江戸幕府開府400年だからかな?でも、この作品、江戸幕府最後の日の話やで…?しかも、登場人物が男性ばっかりで、初春らしい華やぎがないやん…。

…などなど、幕開き前から疑問が多々噴出しながらも、「まあ、梅玉さんが主役やから、いっかー♪」で全てが収まってしまう、ただの馬鹿ファン、とろりん(笑)。

全体の感想ですが、…やはりこれは、初春芝居では、ない…(笑)。

「戦争は、この世でもっとも悲惨なものでございます」など、現代の世界にも響く台詞も多くあるのですが、その前に大政奉還直後の江戸の情勢や、当時の江戸幕府と薩摩・長州、天皇家との関係など、ある程度知っていなければ芝居の世界に入っていけない、という事もあり、睡魔が漂い始める松竹座…(笑)

その観客の視線を、ある程度舞台に引き戻したのが、慶喜を演じた梅玉(←断じて、ただのファン馬鹿ではありません)。

家臣・山岡との激論の中で、将軍としての苦悩、天皇に恭順の意を示しながらも、その深意を理解しようとしない薩摩・長州に対する苛立ちなどを、巧みににじませ、激動の流れの中で、自分の果たすべき役目を悟り、それを受け入れる1人の人間の姿を、見事に浮き彫りにしました。

◆中村松江改め 2代目魁春の襲名披露口上。

魁春、彼の実兄である梅玉、鴈治郎、我當、秀太郎、仁左衛門、と、少し控えめの人数です。

「魁春」という名跡は、当代の養父である、故・6世中村歌右衛門丈が、徳富蘇峰より送られた俳号です。今回添付の、1枚目の写真が、その時、蘇峰より歌右衛門丈に送られた書です。

最初にこの名前を名乗ったのが6世歌右衛門なので、当代は2代目を名乗るわけですが、役者としてこの名跡を名乗るのは、当代が初めてです。

「春に魁ける」人、というこの名跡。ふくよかで、芳しい印象を人に与えて、女方にぴったりの名跡ですよね。

当代も、際立った派手さはないものの、確かな実力となよやかな品格で、しっとりとした余韻を舞台に残す役者さんです。ますますのご活躍をお祈りしてます。

◆『二人夕霧』

魁春の襲名披露狂言。

これは、『廓文章』という上方の狂言をパロディー化したもの。

大阪の豪商・藤屋の若旦那、伊左衛門(仁左衛門)は、新町の傾城(=遊女)、夕霧にいれあげたあげく、大量の借金を抱え、勘当。おまけに夕霧に死なれてしまい、今では2代目の夕霧(魁春)と所帯を持ち、経験を生かして「傾城買指南」(=遊女との遊び方)伝授の師匠で、生業を立てる日々(笑)。

そこへ、死んだはずの先代夕霧(鴈治郎)が現れます。実は先代夕霧、大嫌いな旦那に身請けされそうになって、死んだと偽って身を隠していたのです。

2人の夕霧は、伊左衛門をめぐって恋の鞘当を展開しますが、やがて、「じゃあ、3人で住めば良いじゃん!」ということになり、おまけに伊左衛門の勘当も許されて、ハッピーエンド♪という、「それでいいのか、あんたたち」と、思わずツッコんでしまいたくなる(笑)、おおらかで陽気な、初春にピッタリ(?)の楽しいお芝居。

勘当を許されて、祝い金3千両を受け取った伊左衛門がその小判を撒き散らせて、豪華に打掛をまとって着飾った2人の夕霧を両脇に侍らせて(笑)ハッピーエンド♪という、あまりにも気前の良い終わり方に、観客、呆れつつも大きな拍手(笑)。いやはや、めでたい、めでたい♪(3人で、楽しく生きていってくれそうだ…笑)

これは役者が、上手いこと揃いましたね!!

ダントツは、仁左衛門演じる伊左衛門の、いかにも世間知らずな、上方の若旦那ぶり(笑)。

夜の部の序幕で、血まみれになりながら人をなぎ倒しまくっていた人と、同じ人物とは思えません(笑)。はんなり、おっとりとした色気が、体中からにじみ出て、素敵♪

二人夕霧は、やはり鴈治郎の、いかにも遊女らしい風情の漂うしっとりとした艶やかさに一日の長がありますが、魁春の、若さと意気地にあふれた、胸のすくような、活きの良い遊女ぶりも特筆。幕開きには、遊女の拵えのまま、伊左衛門と飯炊きをしたり(ここでの2人のラブラブぶりが微笑ましい~)、買い物へ行ってタコを買って来たりしてくれて、面白い。

これが、昼の部の襲名披露となる魁春。今までお姫様と娘方しか観た事がなかったので、「傾城、どうかな~」と思っていたのですが、予想以上に可愛らしくて、新たな発見。昨年の歌舞伎座での襲名を機に、ぐっと芸域が広がった感じがします。

***

全体としては、ボリュームありすぎの夜の部と比べると、ちょっと物足りないなぁ…という印象です。

そしてニシムラ、その物足りなさを補うためにとった手段が、夜の部の魁春襲名披露『道成寺』一幕見。(一部読者の人、「何回目やねん!」という突っ込みはしないように。笑)

魁春の『道成寺』、3日に観た時よりもぐっと良くなっていました。3日は、引抜きなどで細かいミスが目立ち、踊りもぎこちない感じ。しかし今日は、失敗もほとんどなく、踊りも、一つ一つの振りが、ピシッ、ピシッと決まるようになって、ようやく自分のものにしてきた、という手応えが感じられました。

千龝楽まで、怪我することなく、無事に舞いおおせて欲しいです。

やはりまた長文となってしまいました…申し訳ありません…

次回は久々の宝塚歌劇、雪組大劇場公演をレポいたします。



今でも二人夕霧というと、この時の舞台を思い出しますね。仁左衛門のはんなりとした上方のつっころばしは絶品です。魁春さんの後の夕霧も、超ラブリーだったなぁ。

なんだかんだと文句をつけているのに、最後は「カッコいいから、いっか☆」であっさりとまとめてしまうとろりん節は、すでにこの頃健在だったのですね…(笑)。

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