2003年 松竹座寿初春大歌舞伎 昼の部 [2003年 歌舞伎]
2003年1月21日送信
皆様、こんばんは。とろりんです。
暖冬暖冬と言いつつも、寒い時はしっかり寒い日本の冬。インフルエンザが猛威を振るっておりますが、お元気ですか?
さて、今回は、初春の夢続行中の、大阪松竹座の歌舞伎興行、昼の部をレポいたします。
昼の部は、とろりんさんの激しくイチ押し御贔屓、中村梅玉(ばいぎょく)の主演作品もあり、ウキウキ(笑)。とろりん母も見物。演目は、以下の通り。
『春調娘七種』(はるのしらべ むすめななくさ)
『将軍江戸を去る』
『中村松江改め 2代目中村魁春 襲名披露口上』
『二人夕霧』(ににんゆうぎり)
◆『春調娘七種』は、短時間の舞踊劇。
歌舞伎の芝居のジャンルに、「曽我物」というのがあります。(日本史にちょこっと出てくる、鎌倉時代、曽我兄弟の仇討ち事件から題材をとっているお芝居)
それで、江戸では、吉例ということで、曽我物の狂言を上演するのが古くからの慣わしだったそうです。
初春七日、七草を恵方に向かって打ち鳴らすという古式の行事に則って、敵討ちと言う悲願成就に勇み立つ曽我兄弟(翫雀・扇雀)と、それをいさめる静御前(孝太郎)、という風景を、舞踊で演じます。
七草を打ち据えるような振りが随所に取り入れられているのが、お正月の見世物らしい雰囲気です。いやー、めでたい、めでたい♪(だいぶ過ぎているが)。扇雀の端正な美貌が、印象に残りました。
◆新歌舞伎『将軍江戸を去る』
新歌舞伎というのは、明治時代以降に創られた作品で、台詞も現代に近い言葉で上演されます。
1868年、江戸城明渡しの前夜、江戸幕府最後の将軍となった徳川慶喜(中村梅玉)と、彼をめぐる側近との葛藤を通じ、去り行く時代への郷愁、新しい時代への出発を描きます。
なぜ上方の劇場で江戸の、しかも幕末の話をするのかしら…?今年が江戸幕府開府400年だからかな?でも、この作品、江戸幕府最後の日の話やで…?しかも、登場人物が男性ばっかりで、初春らしい華やぎがないやん…。
…などなど、幕開き前から疑問が多々噴出しながらも、「まあ、梅玉さんが主役やから、いっかー♪」で全てが収まってしまう、ただの馬鹿ファン、とろりん(笑)。
全体の感想ですが、…やはりこれは、初春芝居では、ない…(笑)。
「戦争は、この世でもっとも悲惨なものでございます」など、現代の世界にも響く台詞も多くあるのですが、その前に大政奉還直後の江戸の情勢や、当時の江戸幕府と薩摩・長州、天皇家との関係など、ある程度知っていなければ芝居の世界に入っていけない、という事もあり、睡魔が漂い始める松竹座…(笑)
その観客の視線を、ある程度舞台に引き戻したのが、慶喜を演じた梅玉(←断じて、ただのファン馬鹿ではありません)。
家臣・山岡との激論の中で、将軍としての苦悩、天皇に恭順の意を示しながらも、その深意を理解しようとしない薩摩・長州に対する苛立ちなどを、巧みににじませ、激動の流れの中で、自分の果たすべき役目を悟り、それを受け入れる1人の人間の姿を、見事に浮き彫りにしました。
◆中村松江改め 2代目魁春の襲名披露口上。
魁春、彼の実兄である梅玉、鴈治郎、我當、秀太郎、仁左衛門、と、少し控えめの人数です。
「魁春」という名跡は、当代の養父である、故・6世中村歌右衛門丈が、徳富蘇峰より送られた俳号です。今回添付の、1枚目の写真が、その時、蘇峰より歌右衛門丈に送られた書です。
最初にこの名前を名乗ったのが6世歌右衛門なので、当代は2代目を名乗るわけですが、役者としてこの名跡を名乗るのは、当代が初めてです。
「春に魁ける」人、というこの名跡。ふくよかで、芳しい印象を人に与えて、女方にぴったりの名跡ですよね。
当代も、際立った派手さはないものの、確かな実力となよやかな品格で、しっとりとした余韻を舞台に残す役者さんです。ますますのご活躍をお祈りしてます。
◆『二人夕霧』
魁春の襲名披露狂言。
これは、『廓文章』という上方の狂言をパロディー化したもの。
大阪の豪商・藤屋の若旦那、伊左衛門(仁左衛門)は、新町の傾城(=遊女)、夕霧にいれあげたあげく、大量の借金を抱え、勘当。おまけに夕霧に死なれてしまい、今では2代目の夕霧(魁春)と所帯を持ち、経験を生かして「傾城買指南」(=遊女との遊び方)伝授の師匠で、生業を立てる日々(笑)。
そこへ、死んだはずの先代夕霧(鴈治郎)が現れます。実は先代夕霧、大嫌いな旦那に身請けされそうになって、死んだと偽って身を隠していたのです。
2人の夕霧は、伊左衛門をめぐって恋の鞘当を展開しますが、やがて、「じゃあ、3人で住めば良いじゃん!」ということになり、おまけに伊左衛門の勘当も許されて、ハッピーエンド♪という、「それでいいのか、あんたたち」と、思わずツッコんでしまいたくなる(笑)、おおらかで陽気な、初春にピッタリ(?)の楽しいお芝居。
勘当を許されて、祝い金3千両を受け取った伊左衛門がその小判を撒き散らせて、豪華に打掛をまとって着飾った2人の夕霧を両脇に侍らせて(笑)ハッピーエンド♪という、あまりにも気前の良い終わり方に、観客、呆れつつも大きな拍手(笑)。いやはや、めでたい、めでたい♪(3人で、楽しく生きていってくれそうだ…笑)
これは役者が、上手いこと揃いましたね!!
ダントツは、仁左衛門演じる伊左衛門の、いかにも世間知らずな、上方の若旦那ぶり(笑)。
夜の部の序幕で、血まみれになりながら人をなぎ倒しまくっていた人と、同じ人物とは思えません(笑)。はんなり、おっとりとした色気が、体中からにじみ出て、素敵♪
二人夕霧は、やはり鴈治郎の、いかにも遊女らしい風情の漂うしっとりとした艶やかさに一日の長がありますが、魁春の、若さと意気地にあふれた、胸のすくような、活きの良い遊女ぶりも特筆。幕開きには、遊女の拵えのまま、伊左衛門と飯炊きをしたり(ここでの2人のラブラブぶりが微笑ましい~)、買い物へ行ってタコを買って来たりしてくれて、面白い。
これが、昼の部の襲名披露となる魁春。今までお姫様と娘方しか観た事がなかったので、「傾城、どうかな~」と思っていたのですが、予想以上に可愛らしくて、新たな発見。昨年の歌舞伎座での襲名を機に、ぐっと芸域が広がった感じがします。
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全体としては、ボリュームありすぎの夜の部と比べると、ちょっと物足りないなぁ…という印象です。
そしてニシムラ、その物足りなさを補うためにとった手段が、夜の部の魁春襲名披露『道成寺』一幕見。(一部読者の人、「何回目やねん!」という突っ込みはしないように。笑)
魁春の『道成寺』、3日に観た時よりもぐっと良くなっていました。3日は、引抜きなどで細かいミスが目立ち、踊りもぎこちない感じ。しかし今日は、失敗もほとんどなく、踊りも、一つ一つの振りが、ピシッ、ピシッと決まるようになって、ようやく自分のものにしてきた、という手応えが感じられました。
千龝楽まで、怪我することなく、無事に舞いおおせて欲しいです。
やはりまた長文となってしまいました…申し訳ありません…
次回は久々の宝塚歌劇、雪組大劇場公演をレポいたします。
なんだかんだと文句をつけているのに、最後は「カッコいいから、いっか☆」であっさりとまとめてしまうとろりん節は、すでにこの頃健在だったのですね…(笑)。
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