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2003年 松竹座寿初春大歌舞伎 夜の部 [2003年 歌舞伎]

2003年1月4日配信

「阿国より 四百歳(よももせ)の賀を ことほぎて 花吹雪舞う 春さきがけに」
(出雲の阿国による歌舞伎発祥400年、そして2代目中村魁春襲名披露、『京鹿子娘道成寺』に寄せて)

「曽根崎の  杜に消えにし  お初の恋  かりがね共に  魂はなお」
(中村雁治郎お初上演50周年によせて)

…2首目は、なんかやけっぱちな歌ですね(笑)。

皆様、あけましておめでとうございます。

今年も不肖とろりん、そして「カンゲキ通信」ともども、御贔屓くださいまするよう、ひとえにお願い申し上げ奉ります。

さて!!2003年、とろりんのカンゲキ初めは、松竹座にて昨日2日に初日を開けました、「寿初春大歌舞伎」夜の部です。

今年は出雲阿国が、京都四条河原で「かぶき踊り」を始めたとされる、歌舞伎発祥から400周年。そして、2代目中村魁春(かいしゅん)襲名披露も重なって、豪華演目が並びます!!そしてやはり長文です!!(笑)

出演は、中村松江改め2代目中村魁春、中村梅玉、片岡仁左衛門、中村鴈治郎、他。東西の実力派が勢揃い!!で期待充分です。

夜の部の演目は、次の3本。

『源平布引滝 義賢最期』(げんぺいぬのびきのたき よしかたさいご)
『京鹿子娘道成寺』(きょうかのこむすめどうじょうじ)
『曽根崎心中』(そねざきしんじゅう)

魁春が初めて、舞踊の大曲『道成寺』に挑み、『曽根崎心中』は、鴈治郎がヒロイン・お初を演じて50周年という、話題満載の夜の部です。

全体的には、もう大満足を越えてお腹はちきれそう(笑)。フルコースを食べ終えた後に、またもメインディッシュが出てきたようなボリュームと豪華さ(笑)。最初の2演目で充実感一杯なのに、とどめに最期の演目で、「まだあるの~!!でも美味しい~!!」という感じです。

***

では、序幕『義賢最期』から。

平家が権勢を誇っていた時代、源氏再興の志を立てながら、平家の軍勢に責め立てられ、自刃を余儀なくされた木曽義仲の父、義賢の生き様を、凄絶に描きます。

これは、主役・義賢を演じた仁左衛門の迫力が全て!!特に終幕の立ち回りは見せ場につぐ見せ場の連続。

3枚の戸板を組み合わせて作った台(| ̄|←こういう形)の上での大見得、そのあとに戸板もろとも崩れる「戸板崩し」、大詰めの階段に顔面から倒れていく「仏倒れ」。息を呑む間もないほどに、仁左衛門の存在感が光ります。

仁左衛門の素晴らしい所は、そう言った派手で豪快な立ち回りの中で見せる、心情の表れがしっかりとしている点。

娘の幸せと無事を祈る姿。身重の妻(彼女の生んだ子が、後の木曽義仲)を労わりつつも、木曽の血を繋げることを諭して落ち延びて行くのを見届ける時の姿。源氏の旗印でもある白旗を託す時の、既に瀕死の重傷を負いつつも、源氏の血を絶やす事は絶対にしない、と強い決意を表わす、見開かれた眼。

一瞬たりとも見逃してはならない、と、瞬きをするのも忘れるほどでした。

「当り役」と言われた仁左衛門の義賢ですが、ただただ感嘆するばかりの演技でした。いきなり今年のベスト5にランクイン(笑)。

***

次は、2代目魁春の襲名披露演目、『道成寺』。

女方舞踊の美の全てが詰め込まれているとも言われる、歌舞伎舞踊の大曲です。

桜が満開の、ある春の日。鐘供養のある寺を訪れた白拍子花子が、女の恋心や恋の情念の様々な姿態を、舞で見せてゆきます。

この白拍子花子を、中村魁春が初役で勤めますが、今月、東京・歌舞伎座でも昼の部で坂東玉三郎による『道成寺』がかかっており、今回は奇しくも「『道成寺』東西競演」が実現しました!!これも歌舞伎400年らしいイベントですね。

魁春の花子は、「かわゆらしさ」が魅力だと思います。想いを重ねたから知る、恋の情念の闇の深さ、妖しさ、というよりも、初めて知った恋の喜びゆえに思い詰めてゆく純真無垢な一途さみたいなものの方が強く表現されていたと思います。

その花子の一途さ、純真さと、初めての大曲、そして養父である故・6世中村歌右衛門がその芸の節目節目に舞い続けた思い出の曲を、ただ一心に踊る魁春の無心さ、が重なって見えます。

硬さの残る蕾が、1つ1つ段階を経て見事な花を咲かせるように、魁春初の道成寺も、一つ一つの場面を丁寧に丁寧に舞い、そして最後のクライマックスで、1つのゴールを見せたように思います。

松竹座の『道成寺』は、なんとも言えない清々しさがあふれていました。

***

ここらで既に満腹状態(笑)。しかし、夜の部の盛り上がりは続きます。

『曽根崎心中』。中村鴈治郎のお初、翫雀の徳兵衛。

中村鴈治郎がヒロイン・お初を演じたのは1953年。この時の爆発的な反響が、鴈治郎の、歌舞伎役者としての道を決定づけた、と言っても過言ではないでしょう。彼自身も、「お初は50年、一緒に生きている『魂』のような存在」だと言っています。

舞台は大阪、新地の遊里。天満屋の遊女、お初は、平野屋の手代、徳兵衛と恋仲。主人への義理と、お初への愛情の板ばさみになる徳兵衛は、そこを悪友の九平次につけこまれ、50両という大金騙し取られます。追い詰められたお初と徳兵衛は、心中を決意し、深夜、曽根崎の杜へと旅立つのでした…。

鴈治郎のお初、素晴らしいよ、もう!!(いきなりタメ口。笑)

この方の女方は、もう「至芸」ですよ。この人でなければ観られない。

徳兵衛が店の主にこう言ってやった、というのを聞いて、「徳さま、そこ、そこのところ、もう一度やって見せてくださんせ」とねだる愛らしさ、もう一度聞いて、思わず抱きつくかわゆらしさ。

一転、追い詰められ、死を決意した徳兵衛を茶屋の床下に隠したまま、その徳兵衛を騙した悪友を前に、「かねてたくんで徳さまを、ふかいところにはめたものなれど…(中略)(床下の徳兵衛に)…死ぬる覚悟が聞きたい…」と悪態をつく時の、守るべきものを知った女の意気地と強さ。

終幕の儚さ、そしてふと垣間見せた微笑の切なさ。すべてが「お初」でした。まさに鴈治郎、入魂の舞台。

あと、「やっぱりスゴイ!!」と感服したのは、その立居振舞の美しさ。

決めるべきところで決める身のこなし、着物の裾の流れ方、身体の線の美しさ!!しかもそれらが全て、まるで無意識であるかのようにスッと決まり、ピタッと決まる。全然力が入っていないのに、ピタリと決まるあの美しさ。これは50年以上、磨かれてきた、「女方の芸」というものなのだろうな、としみじみ思いました。

***

仁左衛門のオーラ、魁春のかわゆらしさ、鴈治郎の至芸。松竹座の夜の部は、これらの一言に尽きます!!

はああ、本当に大満足…!!

それでは、新年早々、長文で失礼いたしました。次回は、「松竹座寿初春大歌舞伎 ”昼”の部」です(笑)。



この時の狂言立ては、本当に充実していましたね。今でも鮮明に覚えていますもの。

この時の『娘道成寺』で魁春さんに惚れ込んで、毎週のように幕見に通ったのもこの興行です。はぁ~、懐かしい…。無垢な愛らしさが光る魁春さんの花子でした。

今はどのようなシステムになっているのか知りませんが、当時の松竹座では、旧・歌舞伎座のように幕見席が一般の客席と区切られておらず、2階の上手ブロック最後列の15席程度のみが幕見席として設定されていました。

観たい演目があると、決められた時間に窓口へ行き、幕見券を購入します。開演10分前になると1階ロビーのカウンター横周辺に集まり、幕見券をチェックされた後、劇場係の案内に従ってエレベーターで2階席へ(建物の構造としては4階にあたります)。

エレベーターの中で、劇場係が終演後の説明や注意事項が伝えられます。終演後は再び劇場係の誘導に沿って劇場玄関まで向かう、というシステムでした。係の人に断っておけば、短い時間でも舞台写真を買いに走ったりもできました。

この時の興行中『道成寺』幕見をしたさに、開演時間ギリギリに劇場についたことがあります。他の人たちはもう客席へ上がっていて、私ひとりだけで案内されることに。

劇場係のお姉さんに連れられてエレベーターに2人で乗り込んだ後、振り返って私を見たお姉さんは一言。

「ああ、もうご存じですよね~(^^)」。

どんだけ劇場に通い詰めてたのかって話ですよね(笑)。今となっては良い思い出です。

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