宝塚花組『エリザベート』 [2002年 宝塚歌劇]
2002年10月14日送信
今回は宝塚歌劇花組公演三井住友VISAミュージカル『エリザベート』をレポートいたします。
『エリザベート』は、オーストリア・ハプスブルグ家の皇妃、エリザベート(1837~1898)の数奇な生涯を、「死(トート)」という存在と絡めて描く、ドラマチックな海外ミュージカルです。1992年にウィーンで初演されて以来、現在もオーストリア、オランダなどでロングラン中です。
宝塚では、1996年に雪組で日本初演され、以後、星組(1996年)、宙組(1998年)と再演。今年、4回目の花組での再演となりました。
出演者は、これが花組トップスターとしてのお披露目となる春野寿美礼と、タイトルロールを勤めるトップ娘役・大鳥れいを筆頭に、瀬奈じゅん、彩吹真央、蘭寿とむ、遠野あすか、ほか花組生。専科より、樹里咲穂、立ともみ、磯野千尋。
「これはスゴイぞ――――っ!!」
これが、全体的な感想ですね。本当に素晴らしい舞台でした。
それぞれのキャスト個人を見ていくと、いろいろと注文が出てしまうのですが、まだ初日開けて間もないので、これからどんどん良くなって行くだろうと思います。1つの舞台としては、非常に高レベル。
やはりこれは、主演の春野寿美礼(死=トート)と、大鳥れい(エリザベート)の、快心の演技なくしてありえなかったと思います。主役2人が、すでに役をがっちり自分のものとして掴んでいる。この2人の「愛」と「死」をめぐる葛藤、対峙、苦悩などがくっきりと浮かび上がり、緊張感あふれる素晴らしい舞台でした。
これがトップスターとして最初の舞台となった春野寿美礼は、力強さと妖しさを兼ね備えた、自分のトートを創りあげていました。
彼女のトート「死」は、ただ人間の命を操り、奪うのではなく、時代の歯車や、人間にははかりえない、時代の空気すらも操り、消滅させるような、そんな計り知れない力を感じさせました。時に透明で、時に冷酷な、そんな変幻自在の存在感が、その力の計り知れなさを、さらに深めていました。
その計り知れなさをもっとも感じさせるのが、その歌声。もともと歌唱力には定評のある人なのですが、それが今回さらにさらにパワーアップ!!本当に惹きこまれてしまいそうな、深くて真っ直ぐな歌声。魅了されてしまいます。
タイトルロール、エリザベートを勤める大鳥れい。これが宝塚大劇場での最後の舞台となります。
春野と同じく、もともと定評のある歌唱力、そして意志の強い女性を演じさせたらピカイチ、という芸風をもつ大鳥にとっては、この役は当り役になるだろうな、と思っていたのですが、やっぱり良かったですね~。素晴らしかった~~。彼女の歌う、名曲「私だけに」を聴いた時には涙が出ました。
今回、エリザベートとトートの2人だけの場面が追加され、第2幕冒頭で新曲「私が踊るとき」をかけあいでデュエットしたのですが、めちゃくちゃ鳥肌が立ちました!!それこそ2人の見つめる生と死がはっきりと浮き立ち、見応えのある場面でした。
以下、その他のメインキャストについて徒然と。
エリザベートの夫、フランツ・ヨーゼフ役の樹里咲穂。
もともと明るい、陽気な雰囲気が持ち味なだけに、この役はちょっと演じ難いかな…という印象でした。歌も演技も安定しているだけに、ちょっと抑えすぎかなー、と。でも、舞台に重ねるにつれてどんどん良くなる人なので、トートとは違う意味で、存在感をだしていって欲しいですねー。
暗殺者ルキーニの瀬奈じゅん。
メインキャストの中では、歌唱力にちょっと不安のあった人なのですが、それが的中してしまいました。
声がお腹から出ていないから、台詞も歌詞も聞きづらい、声も裏返ってしまう…。
作品ではストーリーテラーとして物語を引っ張って行く存在なので、見せ方とか表情とかだけで演技するのではなくて、「観客に言葉を的確に伝える」ということを第一に心がけた演技をして欲しかったです。
今回、目を惹きつけられたのは、エリザベートの息子で皇太子ルドルフを演じた彩吹真央と、自分をエリザベートだと信じている精神病の少女、ヴィンディッシュ嬢を演じた遠野あすか。
彩吹は、親の愛に餓えた、繊細で危うい心をもてあます皇太子が、トートに魅了され、命すらも奪われてしまう、その痛々しい過程を15分間だけの出演で見事に演じきりました。特にトートとのかけあい「闇が拡がる」は、迫力ある二重唱で、一気に舞台の空気を自分のものにしました。
遠野は、当初、配役を聞いたときには不安を感じていたのですが、彼女なりに、ヴィンディッシュという、1人の気を病んだ少女になりきっていたと思います。また、「♪私こそがエリザベート♪」と互いに歌う、大鳥との掛け合いもかなり見応えのある場面となりました。フィナーレのエトワールも美しいソプラノで、拍手。
宙組から花組へ異動して3作目を迎えた遠野ですが、ようやくこの作品で力まずに、自分の実力を自然に出せるようになったのではないかと思います。それだけでも進歩。
今まで遠野に関してはかなり否定的な見方をしていたとろりんですが(苦笑)、見直しました。殻を破って、もっと頑張っていってくださいね~。
いや~、しかし、久々に素晴らしい舞台でした。余韻余韻~。
次回はまたもや花組『エリザベート』(笑)。でも今度は「新人公演」です。
新人公演とは一体??それは次回。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
タカラヅカ・クロニクルから時間の針を戻して、ようやく本編(?)です。さぁ、ガンガンまいりますよ(笑)。
「余韻余韻~♪」というのは、当時、私の中で流行っていた表現です。いつまで経っても幸せな余韻に浸っています…ということをお伝えしたかったのでしょう…(微笑)。
春野寿美礼が花組トップスターに就任した頃から、歌劇団では「トップスター」という言葉の代わりに「主演男役」という言葉を使うようになりました。けれど、私は宝塚だからこそ許される「トップスター」という言葉に愛着がありましたので、あえて使用しています。
春野トートと彩吹ルドルフの「闇がひろがる」は、絶品でした!!この2人の掛け合いを聴きたいがために、思わず実況CDを購入したほどです。
これ以降も、春野と彩吹は『落陽のパレルモ』の四重唱や、『ファントム』のエリックとキャリエールなど、感動的な歌声を聴かせてくれましたよね。ちなみにこの『エリザ』の時から、「オサさん(春野)の真の相手役はユミコさん(彩吹さん)♪」という間違った認識が私の中に出来上がりました(笑)。
このエリザ関連レポは、こちらを含めて4本あります。入れ込んでますね~。うち2本はらんとむ新公レポです(笑)。
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